パティシエ 坂下寛志 Pâtissier Sakashita Hiroshi

タルトを焼き立てにしない理由

      2016/03/14

_MG_4428トゥルモンドのプチガトーには、
タルト仕立てのものが、現在3種類並んでいます。

・デリス ピスターシュ
・タルト ルージュ
・職人のとちおとめのタルト

これらのタルトは、朝に焼いていません。
最近は、朝にタルトを焼いているお店が多いですよね。

私なりの理由が、色々とあるので、
説明していきたいと思います。

一体感

最初に出してしまいますが、“一体感”が一番の理由かもしれません。
タルトを朝焼くかどうかについては、
主に器部分のクッキー生地の状態の違いです。
さくっとするかどうか。

トゥルモンドのものは、少し水分を吸っているため、
乾燥状態のサクッとした感じではありません。
さくり、くらいでしょうか。
表現が難しいですね。

そこまでサクッとさせると、
ムースなどの部分と、タルトの部分と、
全く別の食感になりすぎてしまうんですね。

渾然一体とならない。
ムースとタルトと別れてしまうのです。
最後は、クッキー生地の食感ばかりが残ってしまいます。

それはそれで、悪くは無いですし、美味しいとは思うのですが、
イメージが、ちょっと違うのです。

分かりやすく言うと、
できたてのカレーのニンジンではなくて、
少し周りと一体となったニンジン・・・、分かりづらいですかね(笑)。

クレームダマンドの量を調整できる

タルトは型を使って焼き上げます。
ですので、少しクレームダマンドの量が多いな、少ないな、と思っても、
微調整することが出来ません。
高さも直径も、5㎜ずつでしか調整できず、
お菓子になると、量がかなり変わり、食感も食べ応えも、
全く違うものとなります。

これが370×570mmの四角枠で焼くと、
好きな厚さに設定することが出来ます。

工程を増やすことが出来る

デリス ピスターシュは、焼きパイナップルを散らして焼いた後、
フランボワーズコンフィチュールを、絞っています。
_MG_5194
職人のとちおとめのタルトでは、カシスを散らし、
_MG_5027
タルトルージュは、さらにカシスとブルーベリーのコンフィチュールを、
塗っています。
_MG_6193

もちろん、この工程は、型で焼いたタルトでも可能です。
しかし、時間が凄くかかります。

時間をかければ、その分価格を上げなければなりません。
上げることが出来れば良いのですが、
それをしない・できない事が多い為、割に合わなくなってきます。
そうして、この工程を無くしてしまわざるを得なくなってしまうのです。

370×570mmの四角枠で、大体100個分のプチガトーが出来ます。
ブルーベリーのコンフィチュールを塗るとしても、
ものの5分程度で終わることが出来ます。
1個1個のタルトリングで100個は、
1個30秒としても、50分です。

ですので、味の構成の幅が、ぐんと広がるのです。

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実現するための工夫

以上が、私の思うメリットです。
そして、それを実現するためには、
ちょっとした工夫が要ります。

生地の厚さ

今のパティスリーで先端の方たちは、
生地の厚さが2㎜だと思います。
1.75㎜が限度ですかね。

それに対しトゥルモンドは、3㎜~3.25㎜です。
それくらい無いと、逆に物足りなくなります。

生地の目を詰まらせない

また、生地の配合もグルテンが出来づらいものですし、
そもそも、何度も練り直す必要が無い為、
生地の目が詰まっていません。

生地を伸すと、長い四角形になります。
タルトリングに敷き込むときは、丸型で抜きます。
抜いた残り生地がたくさんできて、
これが2番、3番、n番生地と、どんどん目が詰まって、
さらには、油っぽい生地になっていきます。

クレームダマンドをしっかり作る

クレームダマンドを作る時、しっかり乳化していますか?
出来上がったとき、生地がだらだらしてきませんか?
パウンドケーキを作る時と同様に、しっかりとした乳化が必要ですよ。
_MG_5393トゥルモンドの配合には、小麦粉は入っていませんが、
入っていても、しっかり乳化させます。

させていないと、焼いている時に油が染み出して、
クッキー生地に浸みてしまいます。

湿気る云々ではなく、美味しくないですよね。

クッキー生地は焼いてから

タルトの器を焼いてからダマンドを絞って焼くのと、
最初から一緒に焼くのとでは、
クッキー生地の焼け具合が全く変わります。

エンガディナでもそうですね。
一緒に焼くと、クッキー生地が焼き切れません。
一昔前はそういう工程が多かったのですが、
こういうタルトは、1日持ちません。

クッキー生地は焼いてから、がお勧めです。

デメリット

以上が、私が思うメリットと、その実現方法でした。
しかし、デメリットもあります。

湿気りやすい

焼きっぱなしのタルトと違い、
切断面できてしまう為、やはり湿気りやすい事はあります。
どうしても乾燥状態のサクサクが良い、という方には向かないでしょう。

切断面が綺麗にならない

クッキー生地は熱い時でないと、キレイに切れません。
どうしても、割れた・崩れたような切断面になってしまいます。

焼き上げたタルトのクッキー生地の上面を、こういうゼスターなどで、
削って高さを揃えたりする方もいらっしゃいます。

そこを気にする方なら、そういう切断面はダメでしょうね。

「水分を吸っていない」を過信しない

水分を吸わせないよう、焼き立てにしたり、チョコを塗ったりします。
それはそれで良いのですが、構成をしっかりと考えるべきだと思います。

最初から、そうあるべきだ、と決めつけるのは、
あまり良くありません。

先の食感の話でも出ましたが、
最後にクッキー生地の食感ばかり口に残っても良くないですし、
フォークなどで切りづらく、皿にフォークをぶつけてしまうようなのも、
良くないです。

タルトシトロンのような、中にクリーム状なものの場合、
その上にさらにムースが乗っているものと、乗っていないものでは、
またクッキー生地の表現が違うでしょう。

色んな角度から検討した後に、
「吸わせないようにしよう」「軽くなじむようにしよう」と、
タルトの表現をしたいものですね。

レシピの最新版を公開しています。

https://note.mu/sakashita

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