パティシエ 坂下寛志 Pâtissier Sakashita Hiroshi

なぜパティスリー(洋菓子店)は原価計算をしないのか。 3

   

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そもそも面倒タイプ

パティシエは、まだまだ古い業界だったりします。
パソコンを使わない方が結構いらっしゃいます。

先輩のレシピを、手書きで写すのですよ?
私は写経と呼んでいます。
悪い事ばかりではないのですけどね。

手書きのレシピを、作業で汚したりして、また手書きで書き直したりします。
修業時代の手書きのレシピというとカッコいいですが、臭いが良くないとかありましたね(笑)

レシピでさえ、こんな感じなのですから、原価計算はもっとハードルが高いです。
そびえたつ山のようです。
エクセルを使えれば、ヘリコプターで頂上近くまで行けるのですけどね。

こういう風に面倒というタイプと、原価計算の重要性を感じておらず面倒というタイプがいらっしゃいます。

経営がうまくいっているタイプ

上記に当てはまらないけれど、経営が順調という場合もあります。
そういう場合でも、スタッフに原価計算をさせてみることを、お勧めします。

ひとつは、今は順調であっても、いつ変調するか分からないし、正しい原因を理解し対処できないから。
もうひとつは、スタッフ自身がシェフになる、お店を出すという時に、正しい指針が持てなくなるからです。

スタッフ自身がお店を出す時には、以前のお店とは、知名度や商圏内の購買層など、色んな状況が変わります。
それに対し、おそらく売れる商品の種類や数は変わるでしょうし、戦略の指針づくりが、一からとなってしまいます。

まとめ

そもそも、原価率を○○%にして、材料原価が××円だから、売価は△△円だ、というのは、全くの間違いです。
「呼び込む商品」とか「利益を生む商品」だとかの戦略に基づいて決めるのが、価格です。

そうして、しっかりと利益があって、スタッフの労働時間を含めた、適正な運営ができるからこそ、
思い通りのお菓子を作る事ができるのです。

例えば、当店の「和栗のパウンドケーキ」は、1本¥4,000です。
_MG_7182材料原価率は37%です。
通常、材料原価率は25%までにとどめておきたいことを考えると、
あり得ない高さです。
これだけ国産の和栗を入れ込んだら、そうなりますよね。
25%なら¥6,000となります。

この商品は、

・和栗と呼ばれるものには、日本国産のもの以外もある事を知ってもらいつつ、国産のものだけを使用することで、国内生産者を守っていきたい。
・和栗のパウンドケーキで、日本一のものを作りたい。
・お客様が、胸を張って贈れるものを作りたい。

という思いがあって作っています。

日本一と誇る為には、生地だって日本一を目指します。
はったい粉やきび砂糖、さらには和栗そのものまで練り込んでいます。

この商品は、上記の思いを伝える為に存在し、経営的には、トゥルモンドのこだわりの強さを知ってほしいから作っています。
その上で、トゥルモンドを好きになってもらったり、国産和栗に誇りを持ってもらえれば、とても嬉しい事です。

とはいえ、さすがに赤字で販売するわけにはいかないので、しっかりと原価計算をしているのです。

色んな角度から、お店のファンが増えれば、利益額も上がます。
それは新たな設備投資が出来たり、商品数の増加、より良い品質の材料を使えることにもなります。

というわけで、原価計算は、商品にも、自分やスタッフにも、お客様にとってさえも、良い事ばかりで、大事な事なので、面倒くさがらず、やっていきましょうね。

タイミングを見て、私が使っているエクセルの表をダウンロードできるようにしましょう。
原価計算をする為に、最初から高額なシステムを導入するのは、難しいですから。

なぜパティスリー(洋菓子店)は原価計算をしないのか。 1

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