パティシエ 坂下寛志 Pâtissier Sakashita Hiroshi

「ヴァローナ:エクアトリアールノワール」と「ドモーリ:追カカオバター無し」のお話し。

   

_mg_4523今回は、他のところで面白い話を見たので、それについてお話ししたいと思います。

チョコレートムースで、ヴァローナのエクアトリアールノワールを使用している。
普段は、ドモーリのカカオバターの追油無しのものを、ガトーショコラに使用している。

前者はカカオバターの配合が多く、使いやすい為、
後者は、カカオの強さをできるだけ欲しい為に、使用しているという事でした。

私は今、ヴァローナのショコラは使用していませんが、よく使っていたので、理解したうえでお話しします。

まず、ヴァローナのエクアトリアールノワール55%は、カラク56%よりも、追油のカカオバターが多いです。

エクアトリアールノワールは、他に比べて個性のない味の為、メインでは使わないでしょう。

サブとして、他を引き立てるようなとか、
追油の多さからの流動性の良さを生かし、チョコレートの飾りを薄く作る為とか、ボンボンショコラのコーティングに、などの使い方をします。

カラクは、そのまま使ったりしますが、
単一で使用をすると、そのまんまの味になり、他店のケーキを食べても「カラクの味だ!」みたいになって恥ずかしいので、
大抵、2~3種類のチョコレートをブレンドします。

56%のチョコレートムースを作るにしても、70%のビターチョコレートに、35%のミルクチョコレートをブレンドしたり、と言う感じです。

ヴァローナは高級チョコレートといって良いと思いますが、選択を誤ると、意味不明な使用方法となりますし、
高級を謳う為だけのものとなってしまいます。

こちらで販売価格を確認すれば分かりますが、カラクの方が値が張ります。

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追油のカカオバターが無いと、カカオの味が強いのは間違いがありません。
無脱臭のカカオバターは、しっかりと管理された中での製造・販売であれば、カカオの風味も良く、とても美味しいですが、
さすがに、カカオマスには勝てません。

しかし、ガトーショコラや、テリーヌショコラ、その他も含め、チョコレートの焼菓子で、使用するチョコレートをカカオマスで指定しているレシピはほとんどありません。
ビターチョコレートのカカオ分70~55%のものがほとんどです。
それは、なぜでしょうか?
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ビターチョコレートは、カカオマス、カカオバター、砂糖の3つを主原料とし、バニラ香料と乳化剤のレシチンなどを加えて作ります。

という事は、カカオ風味が強いチョコレート焼菓子を作る為には、風味の弱いカカオバターが入っていない、カカオマスを使って、砂糖を補えば、良いと思いませんか?

単独でカカオマスを使わない理由は、口どけです。
実は、焼菓子にも、カカオバター由来の口どけが、非常に必要なのです。

これは、テリーヌショコラの試作を、うんざりするくらいしたので、良く分かります。
カカオマスだけで作る場合より、適した量のカカオバターが追油された、完成されたチョコレートを使用する方が、労せず美味しく作れました。

結局、何が言いたいのかというと、宣伝や商売の為の理由付けと、美味しいものを作る為の理由を、混同させないでほしい、という事です。

長年パティシエをしているような、嘘や誤魔化しを見抜ける方でないと、
それらを製菓理論として、頭に入れてしまうのです。

色んな商業が絡んでますので仕方ないかな、と思いつつも、
若手の為に、一筆しておきたいと思った次第でした。

【合わせて読みたい】
・未脱臭のナチュラルカカオバター

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