パティシエ 坂下寛志 Pâtissier Sakashita Hiroshi

【パウンドケーキ】卵を入れたら分離しました。1

   

_MG_7131パウンドケーキ難民のみなさん、こんにちは。
今回は、卵を加えたら分離してしまった時のお話をしましょう。

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良くある話

「バターに砂糖を混ぜて、その後、卵を混ぜたら分離しました。」
「分離しない為には、どうすれば良いのでしょうか。」

まず、確認したいポイントは以下の通り。

・バター、卵、その他の材料が、バターが冷え固まってしまうくらい冷たい、という温度にしない。
・バターにしっかりと空気を含ませておく。
・卵を一度にすべて入れない。

これを、基本とします。

この基本を守っているのに分離するときは、そういうレシピなんです。
身も蓋もないような答えですが、そうなんです。
そもそも、「分離する事がいけない」のではなく、「分離した状態のまま焼いてしまう事がいけない」のです。

・バター、卵、その他の材料が、バターが冷え固まってしまうくらい冷たい、という温度にしない。

「バターや卵を常温にしておく」とよく言われます。
これは、常温にしておかないと分離する、という意味では、実はありません。
常温(20~23℃)の温度が、説明しやすい、作りやすい、そんな理由です。

バターは、自由に形を変えれる可塑性を持っているのはご存知ですよね。
これよって、空気をバター内に取り込むことができます。
その可塑性が、もっとも発揮される温度は13~18℃と言われています。

パウンドケーキは、生地に多くの空気を含ませることで、
ふっくらと美味しく焼きあがります。

生地の温度が高くなると、可塑性が発揮できなくなり、空気を含ませられなくなります。
つまり、生地の温度を高くしないと、乳化が出来ない配合は、無理がある配合と言えるでしょう。
「分離したなら、温める」というのは、全くの間違いです。

また、そういうふっくら感を求めていないのであれば、この限りではありません。(クレームダマンドなども、そうですね。)

逆に、冷え過ぎたバターは可塑性が出ませんし、卵が冷たすぎると、バターは固まってしまいます。
しかしながら、ある程度冷たい卵で、生地を引き締める、という考え方は、理にかなっています。
全ては、全体の配合次第なのです。

先述に、常温が作りやすい、としているのは、手作業で作る時の事を指しています。
少量であるとか、家庭で作る、という事です。
機械が無い時代や、家庭向きのレシピ本でのコツを、プロがそのまま信じてはいけません。

・バターにしっかりと空気を含ませておく。

生クリームをホイップすると、空気を含んでいきます。
ある一定を超えると、乳化が崩れ、空気と水分を吐き出し、バターが残ります(分離)。
逆に言うと、バターに空気を含ませると、空気と水分を抱き込めます。

実際に、バターと砂糖を擦り混ぜた状態で卵を加えると、
早い段階で分離してしまいます。
これをそのままホイップすると、空気を含むにつれ乳化し、白っぽくボリュームが出ていきます。
空気と水分を取り込んだ状態です。

先の可塑性の話とも繋がりますが、空気をより含むことが出来る状態は、
水分も多く取り込むことが出来る状態、とも言えます。

・卵を一度にすべて入れない。

卵が少量であったり、水分の多い卵白ではなく、卵黄主体のレシピであれば、
配合によっては、一度に入れてしまっても構いません。

そうでない場合の時に、一度に入れると分離するのか、といえば、そういう訳でもありません。
卵と、卵を入れる前の生地とでは、硬さが全く異なり、上手く混ざりあいません。
時には、ダマになってしまう事もあるでしょう。

分離というより、上手く混ぜっていなく、乳化の段階にさえ行っていない状態、という表現の方が正しいです。

生地の水分量が多く、どんなに気を付けても、卵の段階では乳化しない配合は、実はたくさんあります。
そんな配合でも、レシピ本では、あたかも乳化できるように書いてあるので、皆さん困ってしまうのですよね。

次回

パウンドケーキと一口に言っても、基本のカトルカールから始まり、
様々な配合のパウンドケーキが作られています。

それら全てに、ひとつのやり方を正しいとさせるには、かなり無理があります。
全ては配合次第、これに尽きてしまいます。
また、元も子もない発言ですね。
そんなわけで、次回は、トゥルモンドのパウンドケーキのレシピを少し参考にしながら、掘り下げてみたいと思います。

レシピの最新版を公開しています。

https://note.mu/sakashita

 - パウンドケーキの作り方, 製菓理論