”甘さ”について考える
「甘くないケーキはどれですか?」
ケーキ屋さんをやっていると、一度はこう聞かれます。
この質問は、困ってしまいます。
その理由は、どこからを甘いと判断されるか、個人差があって分からないからです。
「お菓子は甘いものだ。」というのはもっともなのですが、
“甘さ”について、少し掘り下げて考えてみようと思います。
(今回は、甘いお菓子のみを範囲とします。)
“甘さ”と“旨さ”
「甘くするのはなぜか」と聞かれると、
「甘くないと美味しくないから」と答えるでしょう。
甘くないと美味しくないのでしょうか?
お菓子なので、最低限の甘さは必要だと思います。
しかし、必要以上の砂糖を入れないと美味しく感じられないというのは、
何かが間違っていると思います。
例に挙げるとするなら、オレンジジュースが良いでしょう。
果汁100%のストレートジュースに対し、
果汁10%のジュース。
10%のものは、果汁に水を加え、糖類や香料などで調整し、
“美味しい”とさせているものです。
10%なので、味も香りも乏しい為、糖類や香料で補うのです。
対し100%ストレートのものは、素材と加工技術の勝負。
それによって味が決まります。
“旨さ”があるからそのままで“美味しい”わけです。
仮に、これに砂糖を加えると、今度は、くどく感じてしまうでしょう。
お菓子に戻して考えます。
昔に比べ、フルーツなどの原料の味が向上し、
それを加工する技術も向上しています。
結果、お菓子を作る為の材料の質が良くなっています。
そうすると、昔のレシピをそのままに、今のレシピにすると、くどくなってしまいます。
ですので、必然的に甘さを減らすことになるはずです。
結果、旨みが強く、甘さが控えめな、美味しいお菓子が出来あがります。
しかし、ここで、材料の方の量を減らしたり、
質を落として調整することもできます。
そうすると、菓子に加工するまでは、より美味しくなる要素があったのに、
ある意味、昔と変わらない味となります。
それはプチガトーより、焼菓子の方が顕著に表れます。
見た目や食感を除いたら、どれもほぼ同じような『甘い何か』になってしまいます。
以上の考えのもと、トゥルモンドのお菓子は、甘さは控えめになっています。
以前(前職を含む)のレシピを比べてみても、砂糖を増やしたものは一つもありません。
カスタードクリームでさえ、減っています。
しかしそれは、軽いお菓子、という意味にはなりません。
むしろ、濃いお菓子の方に近いと言えるでしょう。
重くはならないよう、素材や製法の組合せ、油脂の量、果汁の量などに気を使っています。
個人的には、菓子と一緒に飲み物が絶対に必要という場合には、
甘すぎる、もしくは、くどすぎるという範囲かな、と思っています。
まとめ
以上のことをまとめますと、
『お菓子は甘いもの』ですが、『甘いものが美味しいもの』ではないです。
菓子に含まれる、素材の旨さや香りで美味しいと感じさせるものを、作っていきたいと思います。
補足 1
導入の為に入れ込んだ一文なのですが、
「甘くないケーキはどれですか?」と問われた時の返答を考えてみます。
この問いだけで、正確な返答をするのは難しく、もう少しコミュニケーションが必要でしょう。
軽いもの、さっぱりしたものが食べたいのか、
濃い味でも、比較的甘さが控えめなら良いのか、
カロリー・糖質制限などを意図しての質問なのか、
とにかく甘さが際立っているものが嫌なのか、
商品を提案するなら、このように、もう少し踏み込みたい感じです。
補足 2
砂糖を減らすと、味以外で問題が出ることもしばしばあります。
保湿性が減り、パサつきやすくなります。
気泡性が減り、ふんわりしなくなります。
保存性が減り、腐敗しやすくなります。
その他にも、こまごまとした問題が出ます。
食感ももちろん美味しさの一部なので、これは頭の痛い問題です。
特に保湿性は、結構大きく影響が出ます。
とはいえ甘くしたくないですし、余計な材料を加えたくないと、
試行錯誤中です。
補足 3
一応言いますと、私たちのお菓子作りは、コンクールの為ではなく、生活の為の仕事であって、
購買のターゲット層に対しての価格設定があったりするので、
その範囲での材料の選択は、ひとくくりにして悪者とはしません。
トゥルモンドのお菓子も、人によっては「立地の割に高い価格」などと言われてしまいますし。
高い価格を納得させられるような、商品を提案していかなければなりませんね。