パティシエ 坂下寛志 Pâtissier Sakashita Hiroshi

パウンドケーキの割れ目について考える

      2016/02/02

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割れ目はそもそも必要か

パウンドケーキの割れ目ができるかどうかは、レシピによって異なります。
割れ目が無くても良いです。
卵など水分が多い、柔らかい食感のレシピでは、基本的にできません。
焼き上がりもフラットに近いです。

割れ目が無いと膨らまない、というのは間違いです。
全体が持ち上がらない、水分が多くないレシピで、
適切な膨らみ方をしたものが、割れ目ができるパウンドケーキです。

たまに、真ん中にナイフを入れる、バターを絞っておく等の、
割れ目を入れるための工程のあるレシピがありますが、
あれは、求める食感が、まずそういうものであって、
なお、中心に割れ目を入れたい時に行ないます。

ちなみに冒頭の画像のケークは、
全くそういう作業をしていません。

割れない理由

割れない理由は2つです。
【そもそも割れるレシピでない】
卵などの水分が多く、柔らかな生地のレシピは、
ケーク全体が膨らむため、大きな割れ目ができません。
トゥルモンドのケークオフリュイ(フルーツケーキ)
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和栗のパウンドケーキ
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どれも、大きな割れ目ができていないことが分かります。

【グルテンの出し過ぎ】
もともと割れるレシピで、膨らまないで割れないのであれば、
グルテンの出し過ぎです。
ここでプロでない方が、よく勘違いしていることがあります。

「グルテンを出さないよう、さっくり混ぜ合わせる」

間違いではないのですが、それよりも重要なのが、
薄力粉の種類です。

ひと口に薄力粉と言っても様々で、
特に注意してほしいのが租蛋白量です。
これが多いと、さっくり混ぜようが、もともと出やすいので、
グルテン過多となり膨らみません。

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トゥルモンドで使用している薄力粉で見てみましょう。

スーパーバイオレット 6%
エクリチュール 9%
クーヘン 10.5%
岐阜県産小麦粉特A 6.7%
ドゥノール 8.5%
特クイーン 8.3%

様々な食感や特性があり使い分けています。
トゥルモンドでは使用していませんが、
バイオレットは7.1%、フラワーは7.7%でした。

冒頭の画像のケークは、ブランデー(ラム)ケーキです。
ケーク全体に、お酒のシロップをたっぷり含ませる為、
柔らかい食感だとグズグズになってしまいます。
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ですので、硬めだけれども、しなやかさがある食感にする為、
租蛋白量の多い小麦粉を配合しています。
スーパーバイオレットとドゥノールを混合しています。

このバランスが重要で、
租蛋白量が多いと膨らまず、硬い食感だけとなり、
また、シロップも吸いづらい状態になりました。

美味しいならそれで良い

マドレーヌのときもそうですが、
美味しさを犠牲にしてまで、見た目にこだわる事は無いと思います。

変にナイフで切れ目を入れたものは、
不自然に一直線で違和感がありますし、
そもそも面倒です。
業務用なら、無駄な工程は排除したいですしね。
手間をかけることが、必ずしも良いという訳ではない、という事を、
強く言っておきたいと思います。

ちなみに、フラットで焼きあがることを利用し、
ケークをしっかりと理解すると、フレンチサイズのカードルでも焼けます。
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レシピの最新版を公開しています。

https://note.mu/sakashita

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