パティシエ 坂下寛志 Pâtissier Sakashita Hiroshi

フィナンシェが油っぽいのは。2

   

_MG_1522フィナンシェの生地の分離を、どれくらいのパティシエが理解しているのでしょうか。
もっとも、このじゅわっと出てくる脂も美味しい、とも言えます。

ですので、全てが悪いという訳ではないのですが、
理解しているのといないとでは、表現がまるで違うと思うのです。

そもそも、フィナンシェは、強い乳化が出来ない配合となっています。
卵黄や生クリームなどの、乳化物が無いのです。

ですので、生地の出来上がりこそ乳化はするのですが、
時間が経ったり、冷やして流動性のないものに力を加えたりなどをすると、簡単に乳化が崩れます。
「乳化が崩れる=分離」なのですが、その程度にも差があります。

焼いている時に、生地の周りがふつふつと脂が出てくる時があります。
これが、少しだったり、てんぷらの揚げ物みたいに、ブクブク出てきたりします。

これは、型に吹きかけたりする離形油やバターが多いという訳ではありません。
生地の分離具合によるのです。

型の隙間から、その脂が流れ出てしまう分もありますが、
大抵は、その型に留まり、フィナンシェの生地の水分が少なくなってきた頃から、今度は、フィナンシェに吸われていきます。

この吸われた液状の脂が、潰した時に出てくる脂です。

分離すると何が悪いかというと、
生地と脂が別々で一体感の無い味になる事と、
脂が出て行ってしまい、生地がスカスカの味わいになる事、の2点です。

下記は、フィナンシェの乳化状態を保つ為の条件です。

・生地を作ったら、すぐに焼き始める。
・生地は28℃以上で保温し続ける。
・度々、ホイッパーで撹拌する。

冷蔵庫で休ませる、一日置くなどは、もってのほかです。

ちなみに分離した生地は、温めようが、バーミックスをかけようが、元の状態に戻る事はありません。

フィナンシェ生地を休ませる、冷蔵庫に入れるなどの製法は、昔からよくある製法です。
では、これが間違いなのかというと、そういう事ではありません。

乳化をさせた状態で焼くと、じゅわっと脂が出てくる表現はできません。
分離気味の生地も、それはそれで美味しいのです。
適切な量と、良い素材であれば。

昔からの製法だからとか、先輩・修業先での製法だからとか、作業効率・生産性の為などで製法を決めるのではなく、
脂は出したくない、じゅわっと適度に出てくるようにしたい等の、
表現したい味がまずあって、それができる製法を選ぶようにしたいものですね。

理解した上での分離気味、これは一番難しい表現ですが、操れると極みに近づくかもしれませんね。

【合わせて読みたい】
・フィナンシェの生地は休ませるか、休ませないか。 1

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